多焦点眼内レンズによる白内障手術
通常の白内障手術で使用する眼内レンズは単焦点眼内レンズです。この単焦点眼内レンズは、一定の距離にしかピントが合いません。このため、いわゆる「老眼」は残り、手術後もメガネが必要です。
そこで登場したのが、「多焦点眼内レンズ」です。
多焦点眼内レンズは遠近ともにピントを合わせることができるため、手術後もほとんどの方がメガネをかけずに過ごすことができます。
ピントを遠くに合わせた場合遠くは見ていますが手元はぼやけて見えます
→老眼鏡が必要
遠くから手元まで概ね良好に見えます
手術に際しての注意事項
多焦点眼内レンズは20歳代の見え方に戻るわけではありません
すべての距離にはっきりとピントを合わせられるわけではありませんので、自由にピントが合わせられる若い頃の見え方とは異なります。眼鏡の使用頻度を少なくすることが目的です。
また、多焦点眼内レンズは、コントラスト感度が通常の単焦点眼内レンズに比べて落ちます。つまり、単焦点眼内レンズよりピントが少し曖昧になり、ややにじんで見える感じです。このため多焦点レンズによる手術を希望された場合でも、全ての方に適応があるわけではありません。
適応になりにくい方の一例
- 夜間、車の運転を職業とする方、細かい色の違いを見分ける職業の方
- 強度の乱視がある場合
- 瞳孔機能障害、網膜疾患や網膜変性・視神経に異常がある(白内障以外の疾患がある)
- 神経質な方、完璧主義の方
ハロー・グレア
多焦点眼内レンズはレンズの構造を工夫することにより、遠方~中間距離~近方に焦点を合わせます。
レンズの特性上、複数の焦点が合うため単焦点レンズに比べると、眼の中に入る光が乱反射されて、
暗所で光が散乱し、見ている物体の周辺に輪がかかって見えたり、光が長く伸びてまぶしく見えることがあります。
個人差はありますが、手術後の時間経過とともに慣れてくるといわれています。
眼内レンズ不適合
眼内レンズの度数は、角膜屈折及び眼軸長により計算して慎重に選びますが、測定誤差を0にすることは困難です。特に強い濁りや強度の遠視・近視がある場合などは、通常よりも誤差が生じやすくなります。手術後、度数のズレが大きい場合には、レーシックによって角膜を削って調整することもできます(タッチアップ)。
また、検査や診察上では問題がなくても多焦点の見え方にどうしても馴染めず、視力が思うように出ない場合があります(waxy vision)。レンズの構造が複雑なためとも言われていますが、原因が分からないものがほとんどです。この場合、数か月から1年くらい経過を見て、単焦点眼内レンズに入れ換えることもあります。
※いずれの場合も、料金は別途発生いたします。
多焦点眼内レンズの種類
①回折型多焦点眼内レンズ
構造
レンズ表面の円環状の回折領域に階段状の細かい溝が刻まれており、これによって光を遠方・近方に 振り分けて(光を散乱させて)、遠くにも近くにも焦点を合わせる構造です。
光の散乱による光学的損失が約20%あるため、ハロー・グレアを自覚しやすかったり、コントラスト感度(光の明暗や鮮やかさ)が低下しやすいと言われています。
PanOptix® Trifocal(パンオプティクス)/日本アルコン
国内初承認の3焦点眼内レンズです。従来の多焦点眼内レンズは、遠方と近方にピントがあう2焦点眼内レンズでしたが、PanOptix®は遠方・近方に加えて中間距離にもピントが合い、より眼鏡への依存が減らせます。
中央の回折構造も従来の3.6㎜から4.5㎜へと改良されて、瞳孔径の大きさへの依存を低減する設計となっており、暗いとところ(瞳孔が大きくなる)でも、ハローグレアを感じにくいようになっています。
乱視用あり
ACTIVE FOCUS(アクティブフォーカス)/日本アルコン
レンズの中心領域が、遠方に光を100%配分する特殊な構造となっているため、遠方視~中間視に優れた眼内レンズです。
また、瞳孔径に応じて光の配分を行うため、夜間・暗所のコントラスト感度を向上してハローグレア現象を軽減します。
遠方重視のため近方の見え方がやや劣りますが、特に夜間に車の運転をされる方には適しています。
乱視用あり
ReSTOR(レストア)/日本アルコン
レンズの中央の直径3.6㎜が回折構造で、その周辺が遠用単焦点眼内レンズになっているアクリル非球面着色レンズです。
レンズの構造上、暗いところ(瞳孔が大きくなる)では近方が見えにくくなります。
手元のピントの距離が30m, 40mの2種類から選択することができ、個々のライフスタイルによって使い分けます。
乱視用あり
TECNIS MULTIFOCAL(テクニスマルチフォーカル)
/AMOジャパン
レンズ後面が回折構造で、前面が非球面になっているアクリルレンズです。
どの瞳孔径でも、近方と遠方に同等に光を配分するためハローグレアを感じにくく、暗いところでの見え方が改良されています。
手元の細かい作業が多い方、中間視よりも近方視を重視する方に適しています。
手元のピントの距離が30m, 40m, 50cmの3種類から選択することができ、個々のライフスタイルによって使い分けます。
乱視用なし
②分節屈折型多焦点眼内レンズ
LENTIS(レンティス)/ドイツ:Oculentis社
LENTISはドイツオキュレンティス社で開発された完全オーダーメイドの多焦点眼内レンズです。ヨーロッパでは広く用いられていますが、日本での承認はなく、自費診療の手術となります。
構造
レンズの半分は遠方に、半分は近方に焦点が合う構造です。
この構造によって、光の散乱による光学的損失が約5%と軽減されたため、ハロー・グレアが軽減される、コントラスト感度が落ちない、従来のレンズよりも明るく鮮明に見える、と見え方の質が向上しました。
度数設定
通常の眼内レンズは0.5D(ジオプター)刻みで、患者様に合う一番近い度数のレンズを使用して矯正していますが、レンティスは屈折度数を0.01D刻み・乱視軸を1℃刻みで決める完全オーダーメイドレンズのため、従来の50倍の精度でより正確な遠視・近視・乱視の矯正が可能です。
納期
術前検査後にドイツのオキュレンティス社に発注し、製造~納品まで1~2か月ほどかかります。
オーダーメイドレンズのため、前金として手術代の半額をレンズ発注前にいただきます。このため、レンズ発注後にキャンセルをされても、前金の返金はいたしかねますのでご了承ください。