抗VEGF治療
抗VEGF治療(硝子体内注射)は、新生血管の増殖や浮腫の原因となる「VEGF(血管内皮増殖因子)」の働きを抑制する薬を眼内に注射する治療です。
血管が詰まった虚血領域では、不足した酸素を供給するためにVEGFという細胞が作られ、血液成分が漏出したり、異常な血管(新生血管)が形成されます。抗VEGF治療は、そのVEGFの働きを抑える薬剤です。
薬剤の効果は時間とともに減弱するため、症状に応じて、1か月~数か月毎に、繰り返し注射が必要です。
抗VEGF物質のはたらき
- 血液成分の漏れを抑えて、黄斑浮腫(黄斑部のむくみ)を減らす
- 異常な新生血管を退縮させ、新生血管からの血液成分の漏れを抑える
抗VEGFの適応疾患
- 加齢黄斑変性
- 糖尿病網膜症(糖尿病黄斑浮腫)
- 網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
- 病的近視における脈絡膜新生血管

正常な黄斑の断面図
加齢黄斑変性
加齢黄斑変性(AMD)は、黄斑の加齢などに伴う変化によって起こる疾患で、黄斑部の下から異常な血管(新生血管)が発生して黄斑部、網膜が障害されます。新生血管は脆いため、出血したり、血液中の成分が漏れ出すことがあります。進行が速く、急激に視力が低下していきます。
治療
- 抗VEGF治療(硝子体内注射)
薬剤を眼内に注射することで、異常な血管(脈絡膜新生血管)の発生を抑制したり、今ある新生血管を退縮させます。 - 光線力学的療法(PDT)
光に反応するビスダインという薬剤を体内に注射した後に、病変部位にレーザーを照射する治療法です。正常な網膜へのダメージを抑えながら、新生血管を退縮させます。

加齢黄斑変性症によって新生血管が発生した黄斑の断面図
糖尿病網膜症(糖尿病黄斑浮腫)
糖尿病網膜症は、高血糖により網膜の毛細血管が傷ついて何らかの変化が生じた状態です。
高血糖の状態が続くと、血管が脆くなったり詰まったりして、血液が運ばれなくなったり、血管の外に血液成分が漏れ出てしまうようになります。その結果、黄斑にむくみが生じた状態が「糖尿病黄斑浮腫」です。
さらに網膜の血流が悪化すると、新生血管が形成され、硝子体出血を引き起こしたり、網膜剥離を引き起こすこともあります。
治療
- 抗VEGF治療(硝子体内注射)
薬剤を眼内に注射することで、血液成分の漏れを抑えて黄斑浮腫を減らしたり、新生血管の発生を抑制します。 - ステロイドテノン嚢下注射
ステロイド薬(トリアムシノロン)を目の奥に注射することで、黄斑浮腫を軽減させます。 - レーザー治療(網膜光凝固術)
新生血管の発生を防いだり、すでに現れた新生血管をレーザー光で焼きつぶして、硝子体出血や網膜剥離を予防します。 - 網膜硝子体手術
網膜症が進行して網膜剥離や硝子体出血が起こった場合に対して行われる治療です。目の中の出血や増殖組織を取り除いたり、剥離した網膜を元に戻したりします。

糖尿病黄斑浮腫の黄斑の断面図
網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
網膜静脈閉塞症は、高血圧や糖尿病、動脈硬化などが原因で網膜の静脈に血栓ができて血管が詰まり、血液の流れが悪くなる病気です。行き場を失った血液や血液成分が血管から漏もれ出すと、眼底出血や網膜の むくみ(浮腫)を起こします。
網膜静脈閉塞症は、静脈が詰まっている場所によって、視神経内の静脈の根元が閉塞した場合の「網膜中心静脈閉塞症(CRVO)」、網膜内の静脈が閉塞した場合の「網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)」に分けられます。
治療
- 抗VEGF治療(硝子体内注射)
薬剤を眼内に注射することで、血液成分の漏れを抑えて黄斑浮腫を軽減させます。 - ステロイドテノン嚢下注射
ステロイド薬(トリアムシノロン)を目の奥に注射することで、黄斑浮腫を軽減させます。 - レーザー治療(網膜光凝固術)
浮腫が起きている部分をレーザー光で凝固し、浮腫を改善させます。また、新生血管の発生も予防することができます。 - 網膜硝子体手術
黄斑浮腫や硝子体出血に対して、硝子体を切除して浮腫を軽減したり、出血を吸引したりします。

網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫の断面図
病的近視における脈絡膜新生血管
近視のなかでも特に度数が強く、眼軸が長いものを強度近視といいます。強度近視で眼球が後方に 引き伸ばされると、網膜や脈絡膜に負荷がかかり、網膜に穴が開いたり、網膜が剝がれたり(網膜剝離)することがあります。このように眼底に様々な異常が生じた状態を病的近視と呼びます。
強度近視により脈絡膜が引き伸ばされると、眼底に過度な負荷がかかってしまい、新たに脈絡膜から異常な血管(脈絡膜新生血管)が生じて網膜へと伸びていきます。
この新生血管からの出血や血液成分の漏出が、やがて黄斑浮腫を引き起こしたり、網膜剥離などの重篤な合併の要因になります。
治療
- 抗VEGF治療(硝子体内注射)
薬剤を眼内に注射することで、異常な血管(脈絡膜新生血管)の発生を抑制したり、今ある新生血管を退縮させます。また、血液成分の漏れを抑えて黄斑浮腫を軽減させます。 - 網膜硝子体手術
網膜剥離や近視性牽引性黄斑症に対して、剥がれた網膜を復位します。

病的近視により脈絡膜から新生血管が発生した黄斑の断面図